2019-08-05

「WTF経済 ―絶望または驚異の未来と我々の選択」感想

ティム・オライリーの視点でここ数年のテック業界でどのような変化が起きているか纏めてあり、トピックは多岐に渡る。その中でも下記の2点は広告業界のソフトウェアエンジニアとして思いをめぐらす所があった。

WTF経済 ―絶望または驚異の未来と我々の選択
オライリー・ジャパン
Tim O'Reilly (著), 山形 浩生 (翻訳)
O'reilly
原著: WTF: What's The Future and Why It's Up To Us

アルゴリズムの管理者としてどうあるべきか

本書の前半はUber, Lift, Google検索を例に価値創造の場におけるアルゴリズムの重要性を説いている。そしてプログラマーは管理職でありプログラムが労働者であると。Googleの検索品質改善の例では、利用者の求めていない低品質なサイトが検索結果の一番上に表示される状況をどう改善したかの紹介がある。すぐに思いつく手段の一つはルールを追加して低品質なサイトを検索結果から除外しまう事だが、彼らはユーザーが検索結果をクリックした後の遷移先の滞在時間をスコアとして利用し、スコアの低い検索結果を除外した。
ルールベースのアルゴリズムは理解が容易で、何かまずい事が起きた時の暫定対応としてプロダクションに投入しがちである。しかしユーザーのフィードバックを利用した方が汎化性能が高くロバストなソリューションになる事はランキングやリコメンド開発者として頭に留めておきたい。

またFacebookにおける見出し詐欺、実際の記事の内容とは異なる刺激的なタイトルを使って利用者を釣っている記事への対応のくだり。
グーグルは、その検索アルゴリズムの厳密な細部は公開しない。ランキングを上げようとする連中に悪用されるのを恐れるからだ。同様に、フェイスブックが見出し詐欺の記事を取り締まったとき、ニュースフィードの製品管理担当副社長アダム・モセリはこう書いた。「フェイスブックは見出し詐欺を定義する複数ページにわたるガイドラインを公開したりはしません。というのもその大部分は実際にスパムであり、もし我々がずばり何をどのようにしているか明らかにすれば、リバースエンジニアリングされて、それを回避する方法を見つけられてしまうからです」
ネット広告における不正対策に繋がる部分であるが、どの様なふるまいを不正とみなすかは公開する事はやはりできない。利用規約にどこまで詳細に記すか、問いあわせにどこまで答えるかの議論が度々発生するが堂々と非公開にして良いのだ。

インターネット広告がネットメディアに与える影響

ネットメディアが主に収益源とする広告収益のもたらす影響について。
検索エンジンやソーシャルメディアで関心を集める必要性は、ニュースメディアの低劣化、偉大な出版物ですらのお手盛り、インチキな論争など、トラフィックを増やす各種技法への堕落をもたらしている。どん底への競争の一部は、ニュース産業の収入が購読料から広告収入に大きくシフトした結果である。
辛辣な表現だが事実として受け止めるべきだろう。Webサイトの価値としてPV数と広告のクリック率が通貨さながらの扱いを受けているのは違和感を禁じえない。しかしインターネット広告がある事でそのようなインセンティブを与えてしまっているのだ。今日たまたま学会で聴いた話で、マイクロソフトの検索エンジンの開発者は「ユーザーが得られた情報の量を操作数で割った物」を指標にしているとの事だった。

https://sites.google.com/view/kdd2019-exp-evaluation/ より

Information Gainの計測はクリックの様な明示的なフィードバックの集計だけで済まないためコストはかかる*1が、情報検索を役目とするサービスの指標として秀逸さに感銘を受けた。広告業界もネットメディアがこのような指標に集中できるような仕組みを目指すタイミングであると思う。そのためにはメカニズムデザインや因果推論が重要な役割を果たすのではと考えている。

*1: 検索結果のリストを見て満足してサイトを去るケースがあるため

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